気づけば春なことにもうずいぶん慣れていた。
毎年、雪がふると嘘のように思う。
降り始めの一晩をこえた朝、窓から町をみおろして 背の低いのも高いのもみんな真っ白にのみこまれている朝、
20数年毎年見ていても、不思議な光景
数日も経てばすぐにその感覚を思い出し、車のフロントガラスをかきながらため息をつくことになるが
今年もまたそうだった。
ついこの間だったように思える。年越しを神社で迎えるために焦って支度して結局ギリギリ間に合わず、ばか大きい雪だるまを作ったり雪合戦したあれが一月だ、いろんなことがいろんな風に変わり果てていた
大学のそばを通りがかると、懐かしくておそろしい空気の匂いがする
この町全部、外身は変わらないが、中は別物だった。
みんなしっかり荷造りして出ていったけれど、忘れものなんかいくらでもあるんだと思う。形にならなくても、置いていったものがいくらでも見えてしまって苦しい。
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部屋のすみに機材が積み上がっていた
一か月とすこしでしかないが、わずかに埃をかぶったそれらを手にとると、かちゃ と金具をあける一音にすでにふしぎな気持ちになる。
電源をつないで 八の字のシールドをほどいて
点滅するそれらをみるそれだけで高揚して悲しくなる、
上蓋をあけた瞬間に、いろんなものが部屋の空気にとけていく気がして怖くなった。
ボードのなかに閉じ込められていたいろんなものが、流れ出して戻らないようなそんな感じ
だがきっと何一つそんなことはないのだ
そう思うしかないが、ひとまず書き残さなくてはいられない。大事かもしれないから
明日からは少し天気がいいみたいで、そんなことだけが幾ばくか救いだった
きょうも枝葉のピンクが緑色に食べつくされそうになっている
夏がまたきても、いつも正気でいられるんかな
そんなことばかり