父がドアをこつこつと二つ叩いた後、少しの隙間から「ばあちゃん、じいちゃんのところに行ったって。」と一言だけ、言った。

 

 

 

 

 

 

 


不思議と驚いているわけではないし、純粋な悲しいともまた少し違うような気がする。涙は出なかった。電話越しの妹へ丁寧に説明する父の声が廊下に溢れていて、私は外へ出るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 


無理やり言葉にするならば、このまま道路のど真ん中で眠ってしまいたい。そのままいっそどしゃ降りの雨に降られたい。ポケットの車の鍵で適当に消え去りたい。二つ持ってきたカメラでこの町の今夜という今夜をすべて写しておきたい。夜のうちなら町にばあちゃんが残っている気がするから。十一時四十分頃、呼吸が終わったと言っていた。夜は楽だったろうか。苦しまなかっただろうか。まだ一時でよかった。今すぐ朝が来たらおかしくなりそうだったから。